ASDの傾向がある人のなかには、複数の仕事を同時に頼まれると、頭が混乱してしまう人がいます。私も以前、小売店でレジ、配送、電話、インカム対応を同時に求められ、ミスを重ねて体調を崩しました。
しかし、仕事を一つずつ処理するシングルタスクの環境へ変えると、混乱が劇的に減りました。現在は、仕事の見える化や上司への優先順位確認を行い、複数の依頼があっても、実際に手を動かす仕事は一つに絞っています。
ズーボ仕事が二つ、三つと重なると、どれから手をつければよいか分からなくなるぞ……。これって、仕事ができないからなのか?



仕事の進め方や環境が合っていない可能性もあるよ。私もマルチタスクではミスが続いたけれど、一つずつ取り組める環境では安心して働けるようになったんだ。
結論:複数の仕事があっても「今やる仕事」を一つに絞る
私がマルチタスクによる混乱を減らすために大切だと感じているのは、次の3点です。
- 口頭の情報を文字にし、抱えている仕事を目で確認できるようにする
- 納期と優先順位を上司に確認し、自分だけで判断を抱え込まない
- 複数の依頼があっても、実際の作業は一つずつ完了させる
マルチタスクが苦手だからといって、仕事そのものができないとは限りません。私の場合、複数業務を同時に求められる職場では混乱しましたが、シングルタスクでは集中力を活かし、効率よく作業できました。
まずは「自分の努力が足りない」と責める前に、仕事を一つずつ進められないか、指示を文字で残してもらえないか、職場へ相談してみてください。調整が難しい場合は、支援機関にも相談しながら、自分に合う業務や職場を検討することも選択肢です。
この記事の筆者について
私はASDの確定診断を受けているわけではありません。医師から「ASDグレーゾーンの傾向がある」と指摘されています。本記事では、研究や公的機関の情報と、私個人の体験を分けてお伝えします。
ASDでマルチタスクが負担になるのはなぜ?
仕事でいうマルチタスクには、二つの作業を文字どおり同時に行うことだけでなく、一つの作業中に別の指示が入り、注意を何度も切り替えることも含まれます。
たとえば、レジを操作しながらお客様の話を聞き、そこへインカムで別の指示が入る場面です。このときは、次の処理が重なります。
- 手元の作業手順を覚えておく
- お客様の話を聞いて受け答えする
- インカムの内容を聞き取る
- どの対応を優先するか判断する
- 中断した作業へ注意を戻す
成人ASDの実行機能を調べた研究では、作業記憶、柔軟な切り替え、計画などに、集団として違いがみられることが報告されています。ただし、得意不得意や困り方には大きな個人差があり、ASDのある人全員がマルチタスクを苦手とするわけではありません。成人ASDの実行機能に関する研究概要
また、マルチタスクの苦手さだけでASDかどうかを判断することはできません。生活や仕事への支障が続き、発達特性が気になる場合は、自己判断だけで決めつけず、医療機関や支援機関へ相談してください。
私の場合は、集中先を二つに分けられなかった
私の感覚は、とても単純でした。
手元の作業に集中すると、インカムの情報が頭に入ってこない。インカムへ集中すると、今度は手元の作業に集中できない。
二つの情報を器用に処理するのではなく、どちらか一方にしか注意を向けられませんでした。私にとってマルチタスクは、複数の仕事を同時に進めるというより、集中先を何度も強制的に切り替えられる、負担の大きい状態だったのです。


【体験談】レジ・配送・電話・インカム対応で頭が常に混乱していた
私は以前、小売店で働いていました。店舗名は伏せますが、担当していたのは次のような仕事です。
- レジ対応
- 配送の受付と伝票処理
- 電話対応
- インカムでの連絡や指示への対応
一つひとつの仕事にも、複数の確認や手順があります。しかし実際の職場では、レジをしながらインカムを聞くなど、同時に複数の対応を求められていました。
自分のペースではなく、お客様や周囲のペースに合わせなければなりません。「早く対応しなければ」と焦るほど確認へ注意を向けられなくなり、頭は常に混乱していました。
レジ誤差や伝票の渡し忘れが起きた
混乱は、具体的なミスにつながりました。
レジでは、さまざまな操作や確認が重なるなかで誤差を出してしまうことがありました。配送受付では、お客様への受け答えだけで精いっぱいになり、お客様控えの伝票を渡しそびれたこともあります。
今なら「一度に対応する仕事を減らす」「インカムを聞くときは手元の作業を止める」「優先順位を確認する」といった方法を考えられます。しかし当時は、自分にマルチタスクで混乱しやすい特性があると気づいていませんでした。
次々に来る仕事へ対応するだけで精いっぱいで、対策を考える余裕もありませんでした。
ミスが続き、体調を崩して退職した
「周りの人はできているのに、なぜ自分にはできないのだろう」と、自分を責めていました。
それでも仕事は待ってくれません。ミスと疲労が重なり、最終的には体調を崩して退職することになりました。
以前の職場で、同僚から発達障害の可能性を指摘されたこともありました。さらに小売店でマルチタスクへ対応できなかった経験が重なり、「努力だけでは説明できない違いがあるのではないか」と、徐々に発達障害を疑うようになりました。
発達障害を疑い、医師へ相談するまでの経緯はこちらの記事で紹介しています。


シングルタスクの職場では、混乱が劇的に減った
その後、障害者雇用でスーパーの品出しを担当しました。以前の小売店とは異なり、基本的に品出しだけを行うシングルタスクの仕事でした。
すると、仕事中に頭が混乱することは劇的に減りました。一つの作業へ集中できるため、むしろ私の特性がよい方向に働き、商品の場所や作業手順を覚えて、効率よく進められるようになったのです。
仕事で失敗して自分を責めることも、ほとんどなくなりました。「次に何が飛び込んでくるか」と身構えず、安心して働けるようになりました。
| マルチタスク中心の小売店 | シングルタスク中心の品出し |
|---|---|
| レジ、配送、電話、インカム対応が重なる | 基本的に品出しへ集中できる |
| 自分で優先順位を判断する場面が多い | やるべき仕事が明確 |
| 頭が常に混乱し、確認漏れが起きる | 作業手順や商品の場所を覚えやすい |
| ミスをして自分を責める | 集中力を活かして効率よく進められる |
| 体調を崩し、退職した | 安心して働きやすくなった |


この経験から、私に必要だったのは「マルチタスクができるようになるまで無理をすること」ではなく、「一つずつ処理できる環境を選ぶこと」だと分かりました。
ASDのマルチタスクによる混乱を減らす7つの対策
ここからは、現在のフルリモート勤務で私が実践している方法を中心に紹介します。すべての方法が誰にでも合うとは限りません。負担の少ないものから試してみてください。
1. 耳で聞いた情報を文字にして見える化する
私は、耳から聞くだけでは仕事を整理しにくく、文字で見たほうが把握しやすいと感じています。そのため、依頼や予定をSlackのリスト機能やGoogleのToDoリストへ書き出します。
リストには、少なくとも次の情報を入れます。
- 仕事内容
- 納期
- 優先順位
- 未着手、進行中、完了などの状態
頭の中だけで覚えず、今抱えている仕事を目で確認できる状態にすることがポイントです。
2. 納期を確認し、優先順位の高い順に並べる
新しい仕事が来たら、まず納期を確認します。納期が近いものを優先し、納期がない仕事は上司の指示を確認します。
ただし、私は今でも優先順位をつけるのが苦手です。そこで、自分で決めて終わりにせず、仮の順番を上司へ共有します。
実際に共有すると、自分ではAが重要だと思っていても、上司から「今はAよりBを優先してほしい」と修正してもらえることがあります。着手前に認識を合わせれば、重要ではない仕事へ時間を使いすぎることを防げます。
3. 複数の依頼があっても、着手する仕事は一つにする
仕事のリストに複数の項目があっても、AとBを同時に進める必要はありません。優先順位を決めたら、まずAだけに集中します。
急ぎの仕事が入った場合は、Aをいったん止め、急ぎの仕事だけを手際よく終わらせてからAへ戻ります。二つを並行するのではなく、シングルタスクを順番に切り替えるイメージです。
新しい依頼が本当に急ぎか分からないときは、次のように確認します。
確認例
こちらは、現在進めている仕事を止めて対応する必要がある急ぎの案件でしょうか?
「急ぎだろう」と推測してすべてへ即対応するのではなく、判断できない部分を質問することで、不要な割り込みを減らせます。
4. 今進めている仕事と、保留した仕事を上司へ共有する
自分の作業状況を上司へ共有すると、優先順位のずれに早く気づいてもらえます。私は次のように伝えています。
共有例
納期を考えて、現在はBとCの作業をいったん保留にし、Aの作業を中心に進めています。優先順位に問題があれば教えてください。
大切なのは、進めている仕事だけでなく、意図的に止めている仕事も伝えることです。上司は全体の状況を把握しやすくなり、必要であれば順番を修正できます。
5. 一つずつ指示してもらえないか相談する
マルチタスクで混乱する場合は、「頑張ります」と抱え込む前に、仕事の渡し方を調整できないか相談する方法があります。
私の場合、小売店でレジ、配送、電話、インカム対応を同時に行ったときはミスが続きました。一方、品出しだけへ仕事を絞った職場では、安心して効率よく作業できました。
相談例
複数の仕事を同時に進めると混乱し、確認漏れが起きることがあります。可能であれば、優先順位を決めたうえで、一つずつ完了させる進め方にしていただけないでしょうか。
厚生労働省が公開している発達障害のある人への職場配慮事例でも、複数の作業を同時に指示せず、一つの作業が終了してから次の指示を出すことや、口頭の指示を紙やホワイトボードへ書くことなどが紹介されています。厚生労働省の職場における配慮事例
必要な配慮は一人ひとり異なり、職場の状況によって実現できる範囲も変わります。困る場面と希望する方法を具体的に伝え、上司、人事、支援者などと話し合ってください。


6. 予定を詰め込まず、仕事を翌日へ回す余地を残す
私は、納期に余裕がある仕事を無理にその日中に終わらせないようにしています。
すべての予定を隙間なく埋めると、急ぎの依頼が来たときに余裕がなくなります。残業で帳尻を合わせる働き方を続けるのではなく、納期に間に合う範囲で翌日へ回し、余力を残します。
また、勤務時間が終わったら仕事から離れ、休日はなるべくパソコンを触らないようにしています。オンとオフを分けることも、次の勤務日に集中するための準備です。
7. 疲れる前に、食事・水分・トイレ休憩を入れる
一つの仕事へ集中できると、今度は過集中によって休憩を忘れることがあります。私は次の3点を大切にしています。
- 疲れる前に休憩する
- 連続して作業する時間に上限を設ける
- 食事、水分補給、トイレを後回しにしない
12時の食事休憩は、仕事が途中でも必ず入れるようにしています。食事を抜いて作業を続けると、結局は午後のパフォーマンスが落ちるからです。
水分補給やトイレ休憩も、作業を強制的に中断するきっかけとして使っています。「疲れたら休む」のではなく、「疲れ切る前に予定どおり席を離れる」ことが過集中の予防になります。
過集中への詳しい対策はこちらの記事で紹介しています。


現在のタスク管理の流れ
私が現在行っている流れをまとめると、次のようになります。
- Slackなどで受けた依頼を文字にする
- GoogleのToDoリストなどへ仕事を書き出す
- 納期を確認し、仮の優先順位をつける
- 仕事リストを上司へ共有し、順番を確認してもらう
- ChatGPTに勤務時間とタスクを伝え、予定づくりを補助してもらう
- 優先順位の高い仕事から一つずつ進める
- 急ぎの割り込みは、本当に急ぎか確認してから切り替える
ChatGPTは、予定やタスクを整理する補助として使っています。ただし、会社の機密情報、顧客情報、個人情報などを入力してよいとは限りません。勤務先の生成AI利用ルールを確認し、入力できない情報は伏せる必要があります。AIが作った予定もそのまま正解とせず、納期や上司の指示と照らして自分で確認してください。


現在のフルリモート勤務やタスク管理については、こちらの記事でも詳しく紹介しています。


マルチタスクで限界が近いときのサイン
私の場合、仕事を抱えすぎると、強い疲労感が出て心の余裕がなくなります。さらに疲れると、周囲へ少しぶっきらぼうな態度を取ってしまうこともありました。
もちろん、疲れていることを理由に相手へ不快な態度を取ってよいわけではありません。だからこそ、そうなる前の変化を「仕事量を調整するサイン」として捉えています。
- いつもより強い疲労を感じる
- 人へ丁寧に対応する余裕がなくなる
- 予定を見ただけで焦りを感じる
- 休憩や食事を後回しにしたくなる
- すべてを今日中に終わらせようとする
こうした変化が出たら、仕事を翌日へ回す、優先順位を確認する、休憩するなど、早めに負担を下げます。
強い疲労や気分の落ち込み、欠勤、日常生活への支障が続く場合は、仕事術だけで解決しようとせず、医療機関や支援者へ相談してください。
シングルタスクは「逃げ」ではなく、強みを活かす方法
シングルタスクへ変えると、私の集中力はよい方向に発揮されやすくなりました。
品出しでは、商品の場所や手順を覚え、一つの作業へ集中することで効率よく進められました。現在の仕事でも、着手する仕事を一つに絞ると、マルチタスクのときより迅速に作業できると感じています。
ただし、集中力は使い方によって疲労の原因にもなります。仕事中は元気でも、あとから強い疲れが出ることがあるため、休憩や作業時間の上限が必要です。
大切なのは、「集中できるだけ続ける」ことではなく、「翌日も安定して働ける範囲で集中する」ことだと考えています。
自分の特性を隠して周囲へ合わせた結果、疲れてしまった体験はこちらの記事で紹介しています。


職場を調整できない場合は、環境を変えることも選択肢
まずは、現在の職場で次の調整ができないか相談してみてください。
- 担当業務を一つに絞る
- 一つずつ順番に指示してもらう
- 指示を口頭だけでなく、文章でも残してもらう
- 優先順位と納期を明確にしてもらう
- 割り込み対応を急ぎのものだけにする
- 定期的に仕事量を確認する
それでも調整が難しく、体調を崩し続ける場合は、自分に合う仕事や職場へ移ることも選択肢です。ただし、体調や収入に関わるため、勢いだけで退職を決める必要はありません。家族、主治医、支援員、ハローワークなどへ相談し、利用できる支援や次の働き方を確認しながら検討してください。
職種名だけで判断せず、実際にどのような業務を同時に求められるのかを見ることが大切です。たとえば同じ販売職でも、レジ、電話、配送を同時に担当する仕事と、品出しだけに集中できる仕事では、私にとって負担が大きく異なりました。
自分に合う仕事を考える方法は、こちらの記事でも紹介しています。


ASDとマルチタスクに関するよくある質問
ASDの人は全員マルチタスクが苦手ですか?
全員ではありません。ASDの特性や程度、得意不得意、仕事の内容、環境は人によって異なります。複数の仕事を問題なく扱える人もいます。
この記事は、医師からASDグレーゾーンの傾向を指摘された筆者個人の経験と、公的機関や研究の情報をもとにしています。
マルチタスクは練習すればできるようになりますか?
メモ、手順書、優先順位の確認などによって負担を減らせる場合はあります。一方、無理に同時処理へ慣れようとして、ミスや疲労が増える人もいるでしょう。
「マルチタスクができるようになる」ことだけを目標にせず、複数の仕事を一つずつ処理できる仕組みを作る方法もあります。
職場へASDのことを必ず伝える必要がありますか?
診断名や特性をどこまで伝えるかは、本人の状況や希望によって異なります。診断名を伝えることに不安がある場合は、まず「どの場面で困るか」と「どのように仕事を渡してもらえると進めやすいか」を具体的に相談する方法もあります。
合理的配慮として正式に相談する場合の手続きや必要な情報は、職場によって異なることがあります。上司、人事、支援機関へ確認してください。雇用分野の合理的配慮については、厚生労働省が指針や事例集を公開しています。
マルチタスクが少ない仕事なら必ず向いていますか?
シングルタスクかどうかは、仕事選びの一つの条件にすぎません。音や光などの職場環境、コミュニケーションの量、通勤、勤務時間、興味、得意な作業なども働きやすさに影響します。
「ASDにはこの職種」と決めつけず、自分がどの場面で混乱し、どの条件なら安定して働けるかを整理することが大切です。
まとめ:仕事ができないのではなく、環境が合っていない可能性がある
私が小売店で働いていたときは、レジ、配送、電話、インカム対応が重なり、頭は常に混乱していました。ミスを重ねて体調を崩し、退職したことで「自分は仕事ができない」と思っていました。
しかし、品出しだけに集中できる職場では混乱が劇的に減り、集中力を活かして効率よく作業できました。現在も、仕事を文字で見える化し、上司と優先順位を確認して、一つずつ進めています。
仕事ができないのは、あなたのせいではありません。その環境が、あなたに合っていないだけかもしれません。
まずは周囲へ相談し、仕事を一つずつ進められる環境へ調整できないか検討してみてください。難しい場合は、自分を責め続けるのではなく、支援を受けながら、自分に合う仕事や職場を探すことも大切です。
更新履歴
第1稿投稿 2026年7月20日(記事コンテンツアップ)








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