ASDのマスキングとは、自分の特性を隠し、周囲に合わせて「普通」に見えるよう振る舞うことです。この記事では、医師からASDグレーゾーン傾向を指摘された私が、障害者雇用で無理をして欠勤した体験と、疲労を減らす7つの具体的な対策を紹介します。
ズーボ周りと同じように働けているのに、家へ帰ると何もできないほど疲れるぞ……。これって、単なる体力不足なのか?



もしかすると、「普通に見えるように」と無理を重ねるマスキングが関係しているかもしれないよ。私も以前、周囲に追いつこうとして体調を崩していたんだ。
結論:マスキングを無理にゼロにするより、疲労に気づいて調整することが大切
ASDのマスキングとは、自分の特性や困りごとを隠し、周囲に合わせて「普通」に見えるよう振る舞うことです。社会的カモフラージュ、擬態と呼ばれることもあります。
マスキングは、人間関係を保ったり、学校や職場へなじんだりする助けになることがあります。その一方、続けるためには多くのエネルギーが必要になり、あとから強い疲労が出る場合もあります。
私が経験から学んだのは、次の3点です。
- 周囲と同じペースで無理をするより、自分のペースで安定して働く
- 疲れ切ってからではなく、疲れる前に休憩や仕事量を調整する
- 困りごとを隠さず、上司や支援者へ具体的に相談する
マスキングを今すぐすべてやめる必要はありません。まずは「どの場面で無理をしているか」「そのあと、どれほど回復に時間がかかるか」を知り、自分を守れる範囲まで負担を減らすことが大切です。
この記事の筆者について
私はASDの確定診断を受けているわけではありません。医師から「ASDグレーゾーンの傾向がある」と指摘されています。本記事では、医学的な説明と私個人の体験を分けてお伝えします。
ASDのマスキングとは?
マスキングは、ASDの特性を意識的または無意識に隠し、周囲から目立たないように振る舞うことを指します。
たとえば、次のような行動です。
- 苦手でも無理に目を合わせる
- 周りの表情、話し方、相づちをまねる
- 会話の返答をあらかじめ頭の中で準備する
- 音や光がつらくても、平気なふりをする
- 分からないことがあっても、理解したように振る舞う
- 疲れていても休まず、周囲と同じペースを保とうとする
- 自分の興味やこだわりを隠す
誰にでも場面に合わせて振る舞うことはあります。ASDのマスキングで注目されるのは、特性や困難を見せないための調整が続き、大きな負担になりやすい点です。英国NHS(National Health Service/国民保健サービス)も、マスキングによって日常活動や対人交流が疲れやストレスにつながる場合があると説明しています。
研究ではマスキングを3つの要素に分けている
CAT-Qは、Camouflaging Autistic Traits Questionnaireの略です。日本語では、「ASDの特性をどのように隠したり補ったりしているかを整理する質問票」と考えると分かりやすいでしょう。
複数の質問に本人が答える形式で、ASDかどうかを診断する検査ではありません。研究では、この質問票をもとに社会的カモフラージュを次の3つの要素から捉えています。
| 要素 | 意味 | 仕事で考えられる例 |
|---|---|---|
| 補償 | 苦手な部分を別の方法で補う | 会話の台本を用意する、指示をメモや録音で確認する |
| マスキング | 自分の特性や反応を隠す | 疲れや感覚過敏を隠す、平気な表情を作る |
| 同化 | 周囲へ溶け込むために振る舞いを変える | 周りと同じ速度やテンションに合わせる |
ただし、日常会話では3つをまとめて「マスキング」と呼ぶこともあります。分類は、自分を決めつけるためではなく、「何にエネルギーを使っているのか」を整理する手がかりとして使うのがよいでしょう。CAT-Qの開発研究でも、補償・マスキング・同化の3因子が示されています。


なぜ「普通」に見られようとするのか
私の場合、背景にあったのは次の気持ちでした。
- 周りに迷惑をかけたくない
- 仕事ができないと思われたくない
- 障害者雇用でも周囲と同じように働くべきだ
- 障害者や変わった人に見られたくない
今振り返ると、「普通に働ける自分でいたい」という意地もあったと思います。
マスキングは、人をだますための行動とは限りません。周囲から否定されたくない、仕事や人間関係を維持したい、自分を守りたいという思いから身につくことがあります。
2023年に、それまでの複数の研究を一定の基準で集め、まとめて検討した論文が発表されました。その論文では、社会的な規範や圧力、周囲からの受容・拒絶、自己評価などが、カモフラージュと関係するテーマとして整理されています。一方で、調査対象には偏りがあり、ASDのあるすべての人へ同じように当てはまるわけではありません。研究の概要はこちら
【体験談】障害者雇用でも周囲へ合わせすぎていた
私は以前、障害者雇用でスーパーの品出しをしていました。
職場には、障害のある人への配慮が用意されていました。
- 定期的な休憩がある
- 品出し以外の仕事は行わないシングルタスク
- 月1回、上司や支援員と面談できる
決して、配慮のない職場だったわけではありません。
それでも私は、周りで働く人に追いつこうとして、作業速度を必要以上に上げていました。疲れていても休まず、「普通に仕事ができる人」に見えるよう頑張っていたのです。
仕事中は動けても、翌日は体が動かなかった
作業中に、いわゆる過集中や「ゾーンに入った」ような状態になることもありました。そのときは、品出しを素早く手際よく進められ、達成感を感じることもありました。
しかし、仕事中に疲れを感じていなくても、家へ帰るとどっと疲れが出ることがあります。さらに無理が重なると、翌日は強い疲労感で体が動かず、気力も湧かなくなりました。それが原因で欠勤してしまうこともありました。
休まず頑張った結果、かえって安定して働けなくなっていたのです。
過集中そのものが悪いとは思いません。体力や体調を調整できれば、集中力を強みとして発揮でき、達成感にもつながります。問題は、集中している最中に疲労へ気づけず、限界を超えてしまうことでした。
過集中との付き合い方は、こちらの記事でも紹介しています。


「遅くても体調を崩さず続けるほうが、周囲に迷惑をかけにくい」と気づいた
欠勤が増えたことで、結果的に周囲へ迷惑をかけてしまいました。そこで私は、考え方を変えました。
周囲に追いつくために無理をするより、多少遅くても、体調を崩さず出勤を続けるほうがよい。
それからは、次のことを意識しました。
- 疲れる前に休憩する
- 周囲と作業速度を比べない
- 無理な仕事は上司や同僚へ相談する
- その日の体調に合わせて速度を落とす
- 困ったことや分からないことを一人で抱え込まない
「悪くなってから休む」のではなく、「悪くなる前に調整する」ことがポイントでした。働き方を変えてからは、以前より欠勤が減り、翌日まで疲れを残しにくくなったと感じています。


職場への相談で助けられたこと
勤務時間を短くしてもらった
長時間勤務では疲れやすく、体調を崩すことがありました。そこで上司へ相談し、勤務時間を短くしてもらいました。
周りの多くが通常の勤務時間で働いていたため、申し訳なさはありました。それでも、無理をして体調を崩すことのほうが、仕事を続けるうえでは大きな問題です。
勤務時間の調整後は、大きく体調を崩すことが減りました。
月1回の面談が安心につながった
面談では、同僚とのコミュニケーションや仕事の進め方、体調面で困っていることを上司や支援員へ共有していました。
支援員や上司は、困りごとを聞くだけでなく、対処法や解決策を一緒に考えてくれました。「困ったら相談できる機会がある」と分かっていること自体が、私の安心につながっていました。
職場で配慮を相談するときは、「つらいです」だけで終わらせず、困る場面と希望する調整をセットで伝えると、話し合いやすくなります。
相談例
長時間勤務が続くと翌日に強い疲労が残り、体調を崩すことがあります。安定して勤務を続けるため、勤務時間を短くできないでしょうか。
相談例
周囲と同じ速度に合わせようとすると、あとから体調を崩すことがあります。体調に応じて作業速度を調整し、優先順位を確認しながら進めさせてください。
雇用分野における合理的配慮については、厚生労働省が事業主向けの指針や事例を公開しています。利用できる制度や配慮は、本人の状況や職場によって異なります。上司、人事、支援機関などへ確認してください。


フルリモートでマスキングの負担が減った
現在、私はフルリモートで働いています。以前の職場と比べて、体調を大きく崩すことはかなり減りました。
私にとって負担の軽減につながったのは、次の点です。
- 自分のペースで作業できる
- その日の体調に合わせ、場所や時間を調整できる
- 静かなコワーキングスペースを選べる
- 職場の余計な音を避けられる
- 必要以上の対面コミュニケーションがない
- 通勤で体力を使わずに済む
- 仕事そのものへ集中しやすい
フルリモートであれば、誰でも疲れなくなるわけではありません。孤独を感じる人や、自宅では集中しにくい人もいるでしょう。私の場合は、音、通勤、対面での気遣いによる消耗を減らせたことが、体調管理のしやすさにつながりました。


リモート勤務の詳しい体験は、こちらの記事でも紹介しています。


リモートでもマスキングがゼロになったわけではない
今でも「変な人だと思われたくない」という気持ちはあります。また、上司から仕事を求められると、必要以上に応えようとしてしまうこともあります。
オンライン会議にも負担があります。私の場合、約40分の会議が2〜3回続くと疲労を感じ始め、頭が働きにくくなります。
聞き取れなかったことを隠して分かったふりをするのではなく、現在は相手の了承を得たうえで録音させてもらうことがあります。録音する場合は、必ず参加者の同意を得て、会社のルールや情報管理に従うことが必要です。
また、長い会議では途中に休憩を入れてほしいと上司へ伝えています。嫌な反応はされませんでしたが、休憩を挟む方法はまだ実施できていません。そのため、現時点では「効果があった対策」ではなく、疲労を軽減するために相談している方法です。
オンライン会議の相談例
40分ほどの会議が2〜3回続くと、疲労で情報を処理しにくくなります。長時間になる場合は、途中に短い休憩を入れていただけないでしょうか。
録音の相談例
会議の内容を聞き逃すことがあるため、あとで確認できるよう録音してもよいでしょうか。データは会社のルールに従って管理します。
マスキングで疲れているときのサイン
マスキングは習慣になっていることもあり、自分では気づきにくい場合があります。私は、次のような変化を「無理をしているかもしれない」という目安にしています。
- 仕事中は動けるのに、帰宅後は何もできない
- 翌朝、強い疲労で体が動かない
- 気力が湧かず、仕事や家事を始められない
- 疲れているのに、周囲の目が気になって休めない
- 作業速度や勤務時間を周囲と比べ続ける
- 頼まれた仕事へ必要以上に応えようとする
- 会議が続くと、話を聞いても頭に入らなくなる
- 休日のほとんどを回復だけに使っている
これは診断用のチェックリストではありません。強い疲労や気分の落ち込み、欠勤、生活への支障が続く場合は、自己判断だけで済ませず、医療機関や支援者へ相談してください。
マスキングは悪いこと?役立つ面と負担になる面がある
私にとって、マスキングは悪いことばかりではありませんでした。
周囲と同じ世界にいるように振る舞うことで、ある程度コミュニケーションを取り、職場になじむことができました。集中力が発揮され、品出しを手際よく進められたと感じる場面もあります。
一方で、無理を続ければ、どこかでほころびが出ます。私の場合は、帰宅後の強い疲労や翌日の気力低下、欠勤という形で表れました。
2026年に発表されたスコーピングレビューでは、カモフラージュと不安、抑うつ、ストレス、燃え尽き、精神的な健康状態との関係を調べた48研究が整理されています。全体として好ましくない精神的健康との関連が示された一方、研究方法の違いや因果関係の方向など、まだ検討が必要な点もあります。レビュー全文はこちら
そのため、「マスキングは危険だから、すべてやめるべき」と単純には言えません。短期的には自分を守り、社会へ参加するために役立つこともあります。
大切なのは、マスキングをしている自分を責めることではなく、得られるものと消耗の大きさが釣り合っているかを確認することです。
マスキングによる疲労を減らす7つの対策
1. 疲れた場面と回復時間を記録する
「誰と、どこで、何をしたあとに疲れたか」を短く記録します。仕事中だけでなく、帰宅後や翌日の状態まで見るのがポイントです。
私のように、作業中には疲れを感じず、帰宅後に一気に出ることもあるからです。
2. 疲れる前に休憩する
限界になってから休むのではなく、時間を決めて休憩します。過集中しやすい場合は、タイマーや予定表を使い、作業を止めるきっかけを外側に作る方法もあります。
3. 周囲の速度ではなく、安定して続けられる速度を選ぶ
一時的に速く働けても、そのあと動けなくなっては仕事を続けにくくなります。
「今日はどこまでなら、明日に疲れを残さずできるか」を基準にします。遅さを責めるより、丁寧に継続できることを優先します。
4. 困りごとと希望をセットで伝える
相談するときは、次の順番で整理すると伝えやすくなります。
- どの場面で困るか
- 心身や仕事へどのような影響が出るか
- どのような調整を希望するか
- 調整によって、仕事をどう続けやすくなるか
口頭で伝えにくい場合は、事前にメモを渡す方法もあります。
5. 仕事を具体的に調整する
私の経験では、次のような調整がありました。
- 勤務時間を短くする
- 担当する仕事を絞り、シングルタスクにする
- 定期的に休憩する
- 月1回など、相談の機会を決める
- 作業の優先順位を確認する
- 体調に応じて作業速度を調整する
必要な配慮は人によって異なります。すべてを一度に求めず、困りごとの大きいものから一つずつ相談する方法もあります。
6. 音・通勤・コミュニケーションの負担を減らす
仕事そのものではなく、職場の音、照明、通勤、雑談などで体力を消耗している場合もあります。
静かな席、イヤープラグの使用、時差通勤、在宅勤務、チャット中心の連絡など、自分が何に疲れているかに合わせて環境を調整します。
ASD傾向と疲れやすさについては、こちらの記事にもまとめています。


7. 欠勤や生活への支障が続くなら、専門家へ相談する
マスキングという言葉だけで、ASDかどうかを判断することはできません。また、強い疲労や気力の低下には、心身の別の状態が関係している可能性もあります。
体が動かない、欠勤が増えた、気分の落ち込みが続くなどの変化がある場合は、医療機関、支援員、職場の相談窓口などへ相談してください。緊急性のある不調や、自分を傷つけたい気持ちがある場合は、身近な人や地域の緊急相談窓口へ早めにつながってください。


周囲の人に知ってほしいこと
外から問題なく働けているように見えても、その人が無理なく働けているとは限りません。
「普通にできているから配慮はいらない」と決めつけず、次のように確認してもらえると相談しやすくなります。
- 仕事のあとや翌日に、疲れが残っていないか
- 分からないことを質問できているか
- 休憩を取りにくい理由がないか
- 仕事量や指示が分かりやすいか
- 本人が続けやすい連絡方法は何か
私の場合、上司や支援員との定期面談が安心につながりました。困ってから本人だけに申し出てもらうのではなく、定期的に確認する場を用意することも一つの方法です。
ASDのマスキングに関するよくある質問
マスキングは女性だけに見られるものですか?
女性のASDが見つかりにくい理由として語られることが多いテーマですが、女性だけのものではありません。英国NHS(国民保健サービス)も、女性のほうがマスキングする可能性がある一方、男性も行うと説明しています。性別だけで「マスキングをする・しない」を判断することはできません。
ASDグレーゾーンでもマスキングすることはありますか?
ASDの確定診断がなくても、「特性や困りごとを隠して周囲へ合わせている」と感じる人はいます。ただし、その経験だけでASDやグレーゾーンと判断することはできません。
私自身も確定診断はなく、医師からASDグレーゾーンの傾向を指摘されています。この記事で紹介した内容は私個人の経験であり、診断の代わりにはなりません。
マスキングと過剰適応は同じですか?
重なる部分はありますが、完全に同じ言葉とは限りません。マスキングはASD特性を隠したり補ったりする文脈で使われ、過剰適応は自分の感情や必要を抑えて環境へ合わせすぎる、より広い状態を指すことがあります。
私が周囲と同じ速度で働こうとして休まなかった経験には、マスキングと過剰適応の両方が重なっていたと考えています。
マスキングはやめたほうがよいですか?
一律にやめる必要があるとは言えません。マスキングによって自分を守れたり、コミュニケーションを取りやすくなったりする場面もあります。
まずは、疲労が大きい場面だけ強度を下げる、安心できる人の前では無理を減らす、回復時間を確保するなど、現実的な範囲から調整する方法があります。
CAT-QはASDを診断する検査ですか?
いいえ。CAT-Qは社会的カモフラージュを研究・把握するための自己回答式の質問票であり、それだけでASDを診断するものではありません。診断や心身の不調については、専門家へ相談してください。
まとめ:無理して周りに合わせるより、自分のペースを守ろう



以前の自分に声をかけるなら、「無理して周りに合わせる必要はない」と伝えたいです。



速く働くことだけが、周りのためになるわけじゃないんだな。



うん。まずは自分のペースを保って、与えられた仕事を一つずつ丁寧にこなせばいい。困ったことや分からないことは、周りに相談していいんだよ。
ASDのマスキングは、その場を乗り切り、社会へなじむために役立つことがあります。しかし、無理を続ければ、あとから強い疲労や体調不良につながる場合もあります。
最後に、この記事のポイントをまとめます。
- マスキングとは、特性や困りごとを隠して周囲へ合わせること
- 外から普通に見えても、本人は大きく消耗している場合がある
- マスキングには、社会参加を助ける面と負担になる面がある
- 疲れ切る前の休憩と、自分のペースを守ることが大切
- 困る場面、影響、希望する調整を具体的に相談する
- 欠勤や生活への支障が続く場合は、専門家や支援者を頼る
焦らず、一つずつで大丈夫です。「普通に見えること」よりも、体調を守りながら生活や仕事を続けられることを大切にしてみてください。
参考文献・公的情報
- Development and Validation of the Camouflaging Autistic Traits Questionnaire(CAT-Q開発研究)
- Psychosocial factors associated with camouflaging in autistic people and its relationship with mental health and well-being(2023年に複数の研究をまとめた論文)
- The relationship between autistic camouflaging and mental health(2026年スコーピングレビュー)
- NHS:Signs of autism in adults
- 厚生労働省:雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮
更新履歴
第1稿投稿 2026年7月19日 (記事コンテンツアップ)









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